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土壌診断室の小玉さんは毎日のように農家を訪ね、土を採取し、持ち帰る。訪ねた先では何かと相談を受けることが多い。土を触る手は、慈しみに満ち、作物へ注がれる眼差しはやさしい。訪ねた先では、農産物の発育状況や病害虫の心配事など、話し込んでしまうことも多いという。まるで問診に来たお医者さんのようだ。いつかテレビドラマで見た赤ヒゲ先生のようでもあり、南予を舞台とした司馬遼太郎氏の小説「花か神しん」に登場する卯之町の医師・二宮敬作のようでもある。敬作は、日本近代医学の父といわれる蘭らんがく学者シーボルトの高弟子で、日本人として最初にドイツの人名事典でも紹介されたほどの医学者であった。しかし、その生涯を町医者としてまちに過ごした。生活に困っている人からは薬代もとることもなく、いつも自らの暮らしに窮すほどだったという。南予には市し井せいにつくすことをあたりまえの喜びとして尊ぶ気風が、今も暮らしの中に根付いている。その気骨が幾重にも重なる「地下茎」のように地域という共同社会をその根底で支えているのだろう。小玉さんや川本さんもそういった「地下茎」の一人である。さて、赤ヒゲ先生(といっても小玉さん本人はヒゲなど生やしてらっしゃらないが)は、採取した土を診断室に持ち返り、分析をして診断書(土のカルテ)を作成。そのカルテに基づいて健やかな土づくりを指導する。まるで定期検診のようである。農地は土と空気、水、腐植、小動物、無機物で構成され、そのバランスが崩れたとき、作物の生育に支障が生じたり、肥料の流亡の原因となる。良い土の条件は1耕土が深く、通気性が良いこと2排水が良く、しかも保水性が良く、乾湿の差が少ないこと3肥沃で養分の分布が均一であること4病菌、害虫が少ないことであるという。「町内のほとんどの農地は、粘土質のため保水性は良い反面、通気性が悪く、乾湿の差も大きい傾向にあります。雨上がりには土が鍬にくっつき、乾くと鍬が土に立ちにくくなるのは、このためです。石灰質肥54良い土の条件赤ヒゲ先生曰く…