ブックタイトルuchiko_all

概要

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親父の実家が商店街の一角で自転車店を営んでいるので、もの心つく前からこの界隈には馴染んできた。それが重要伝統的建造物群保存地区に選定されるほど趣きある面影を残していたなんて、それは大人になって知ったこと。自転車屋からは目と鼻の先にある何やら怪しい建物があの「内子座」であったこともはずかしながら、最近知ったほどである。遠い少年の日、夏休みの多くをこのまちで過ごした。古い町並みは隠れんぼや探検をするには格好で狭い路地をネコのように巡ったことを思い出す。午後になると日課のように通った小田川で、ある日、野鯉の群れを発見したときのあの数秒の光景は、今なお心の底できらめいている。大人になって、気がつけば写真で飯を食うようになって、実ははじめてファインダー越しにこのまちを見た。5